戦費全体で見れば、艦隊決戦は派手だが安い、膠着状態は地味だが、長期化により確実に社会の資産を食い尽くす。

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兵站(= Military Logistics)にスポットを当てたSF小説ということで読んでいる『星系出雲の兵站』シリーズですが、新シリーズに突入しました。これからも読んでいきます。

膠着状態を避けて、短期決戦を目指すのは常道とされますが、なぜそう言えるのかを説明しているのがこの部分かなと思います。

「自分は兵站監だからわかるが、いかに現在の軍予算が特別会計で動いているとはいえ、ガイナスとの戦闘に費やした戦費だけで、通常会計でコンソーシアム艦隊の一年分に相当する。天涯一つの戦闘だけでだ。

しかも、ガイナス拠点を封鎖している現時点での予算の膨張分は、天涯での戦費を上回る勢いだ」

「膠着状態なのに戦費が上回るって、どうしてだ?」

さすがに水神もその話は信じ難かった。

「戦闘してもしなくても、コンソーシアム艦隊は待機状態にあり、高速商船の徴用準備や予備役軍人の最呼集準備が始まっている。人と物が増えれば、固定費も増える。

しかも、奈落や上手・下手ステーションのような恒久的な建築物は、運営費も馬鹿にならない。職員数で考えれば、ちょっとした艦隊並みの人員が働いている。それにも予算が計上される。

つまり経理における軍役のパラドックスだ」

「なんだ、軍役のパラドックスって?」

「艦隊戦は兵器の一大消耗戦で、それだけ見れば大金が消費されるが、戦闘は短期間に終わる。

それに対して膠着状態は、兵器類の消耗は少ないが長期間続く。しかも、艦隊戦並みの戦力を待機させ続けねばならない。

戦費全体で見れば、艦隊決戦は派手だが安い、膠着状態は地味だが、長期化により確実に社会の資産を食い尽くす。これが軍役のパラドックスだ」

「短期決戦が望ましいということか」

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