我々が未踏分野を切り開く。だからこそ、機械的に判断して機械的に動く。そうすれば何が足りないのか見えてくる

兵站(= Military Logistics)にスポットを当てたSF小説ということで読んでいる『星系出雲の兵站』シリーズですが、4巻目まで到達しました。人類と似た生命体と遭遇した際に、人類はどのように交戦すべきかといったことが今回は語られていると思います。

現場の指揮官シャロン大佐にフリーハンドを与えることを決める会議の場においての議論です。

「シャロン大佐の行動の責任を我々が負うのは。現在が平時であり、危機管理委員会は文民統制を旨としているからに他ならない。

平時においてコンソーシアム艦隊は危機管理委員会の命令で動く。文官の命令で武官が動く以上、結果の責任は命令者である文官が負う。この原則抜きで文民統制はできない。

別の表現をすれば、公的な命令とは、命令者が責任を負うからこそ機能する。

責任を負わない命令者がいるとしたら、その人間はならず者と呼ばれても反論できないだろう」

「権力には責任が伴うということだな」

殿上頭領の発言で、ざわついた議場も静かになった。それでも別の委員からの質問はある。

「文民統制の原則はわかった。しかし、だからといって『一万人殺し』の彼女の行動について、全責任を負うのはやりすぎではないのか?」

「いささか誤解があるようだ。

軍人に自由裁量を認めるというのは、あくまでも軍人という立場での自由裁量を意味する。

彼女が作戦を実行するにあたって、それが適切な手順で行われたのなら、その結果について我々が責任を負うことになる。

いわゆる『一万人殺し』と呼ばれるものについても、彼女には不法行為は認められない。だからこの件で処分もされていない。

もしも彼女が作戦実行中に不法行為を犯したならば、軍の適正な手続きにより責任を取ることになる。この場合は責任を負うのは彼女以外にいない。

もっと彼女の不法行為の内容によっては、我々に任命者責任が生じる可能性はありえる。ご理解いただけただろうか?」

そしてタオは続けた。

「もう一つここで為すべきことがある。

それは彼女を外部の攻撃から守ることだ。彼女が適切な手順で作戦を実行し、その結果により世論やあるいは軍内部から攻撃されるような場合には、我々は彼女を守らねばならない」

「我らの責任で、だね、議長?」

「その通りです、殿上委員」

フリーハンドを受けた結果、シャロン大佐とマイア少尉の会話。未知の生命体との戦闘にあたり、何を考えて進めていくのかについて。

「我々の捕虜への対応は、規則との齟齬として記録される。可能な限り規則に従って対応しようとすることで、我々の法規がガイナス捕虜に対して、どれほど現実と乖離しているかが明確になる。

危機管理委員会は、こうした状況への自由裁量を連隊長である私に与えた。

だから我々のこれからの経験は、他の部隊は以後活動する上での新しい規則となる。

我々が未踏分野を切り開く。だからこそ、機械的に判断して機械的に動く。そうすれば何が足りないのか見えてくる。どうだ、連隊長附?」

「マイザー・マイア少尉、連隊長の指示の下、必ずや未踏分野高地を攻略いたします!」

マイアはシャロンに敬礼する。ここまでの考えは彼にもなかったのだろう。

もちろんシャロンの説明に嘘はないが、彼女には部下に機械的に動くよう命じるもう一つの理由があった。それは予想外の事態に対して、可能な限り部下を守るためだった。

部下たちが軍律に従って行動する限り、何か問題が起きたとしてもそれを連隊長・連隊として守ることができる。

おそらくは、少なからず予想外のことが起こる戦場だからこそ、シャロンは部下を守る体制を築いておきたかったのだ。

戦争状態が長期化し、体制を整えていくことが必要となってくるときには、業務の平準化、責任・権限の職掌の明確化が必要。

有能な人間にあれこれ丸投げするのは簡単だが、その人間がいなくなれば関係部門の機能が麻痺するようではガイナスとは戦えないのである。

それよりも情報や業務請負の流れと責任・権限の職掌を明確化し、下級から中間管理職の業務を平準化したほうが、想定外の事態が起きても組織は柔軟に対応できるのだ。

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