「私のような人間はこの世にいてはならない」という自分自身に対する呪い

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つねづね申し上げていることだが、他人を出し抜いて利己的にふるまうことで自己利益を得ている人間は、そういうことをするのは「自分だけ」で他人はできるだけ遵法的にふるまってほしいと願っている。

高速道路が渋滞しているときに路肩を走るドライバーや、みんなが一列に並んで順番を待っているときに後ろから横入りする人は「そんなことをするのが自分だけ」であるときにもっとも多くの利益を得、「みんなが自分のようにふるまう」ときにアドバンテージを失うからである。

だから、彼らは「この世に自分のような人間ができるだけいないこと」を願うようになる。

論理的には必ずそうなる。

その「呪い」はまっすぐ自分に向かう。

「私のような人間はこの世にいてはならない」という自分自身に対する呪いからはどんな人間も逃れることはできない。

そのような人は死活的に重要な場面で必ず「自滅する」方のくじを自分の意志で引いてしまうのである。

甲野先生の最後の授業 %28内田樹の研究室%29